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アルバートサウルスのボロ…あっ間違えた、ホロタイプの話

こちら、カナダのアルバータ州を代表する恐竜アルバートサウルス。ティラノサウルスの仲間ですが、少し小さめで華奢な肉食恐竜です。ティラノサウルスがゴリマッチョだとすると、細マッチョな感じです。

このアルバートサウルスの歴史はかなり古く、しかもちょっと面白いのでシェアしたいと思います。

http://www.tyrrellmuseum.com/about/the_naming_of.htm

一番初めの発見者はこのおじさま、地質学者のジョセフ・ティレル (1858-1957)さん。最近流行りのメガネをしていますね。カナダの有名な恐竜博物館、ロイヤルティレル博物館は彼の名前からきています。1884年に彼はカナダの地質調査でドラムヘラーのレッドディア川周辺調査していました。そして突然6月9日に”絶滅した爬虫類の骨”を見つけます。

当時のことティレルは手紙に残しています。

‘‘While down in the bottom of the last coulee, I found a head of one of the large extinct reptiles that used to roam over the country, the first as far as I know that has been found in any part of Canada, but unfortunately it was too heavy to move and too brittle, and although I have got a large portion of it, it is now in so many pieces that it is doubtful whether it can be put back together again. It would have been worth a good deal to have it just as it was in the Museum room in Ottawa.’’ (1884年8月13日、reproduced in 2007 by Robertson)(Tanke & Currie, 2010)

(雑な今風な訳; …おそらく自分が知る限りカナダで初めての絶滅した爬虫類の頭を見つけたんだが、重すぎて動かせないし、脆いし、だいたいは取り出せたけど、それも全部バラバラになっちゃったし、多分これ元に戻すの無理そう。まあそのままオタワの博物館に置いとくだけでもすんごい価値あるよね。)

えええええ、めっちゃ雑やんて思いますよね。州で初めて見つかった恐竜の化石なのに。そうです。古生物学者は化石を壊さないように常に細心の注意を払いますが、一回壊してしまった後は「やっちゃった」くらいに切り替えが早いです。まあ、不可逆ですからね。後からボンドでくっつけるしかないんです。

‘‘I walked up the bank close to camp, and at an elevation of between forty to eighty feet found a number of Dinosaurian bones in an excellent state of preservation, though very brittle. Most of them were heavy and massive, such as those of the limbs, etc., but among these was a large and fairly perfect head of Laelaps incrassatus, a gigantic carnivore. We spent the afternoon excavat ing these bones from the rock, but unfortunately we had no appliances but axes and small geological hammers. We worked with all the care that the tools and time at our disposal would allow, but in spite of all we could do some of the bones, teeth, etc. were broken. Then, after we managed to get them out of the rock, we had no proper means of packing them, and no boxes but the wagon box to put them in. However, we got together the skull and some of the best of the leg and other bones and then found that we had a heavier load than we were able to carry with us. We were therefore obliged to leave a small pile of bones at the bottom on the bank just north of the creek, on the chance that we might be able to pick them up at a later date, which fortunately we were able to do two months afterwards.’’ (1923年) (Tanke & Currie, 2010)

(もっと雑で今風な訳;…素晴らしい保存状態の恐竜の骨を見つけた。脆いけど。…頭蓋骨なんてだいたい揃ってる。…でも、斧とハンマーしか持ってなかったし、…頑張ったけど何個か壊れちゃった。…しかも梱包するものなんてないし、運ぶのだってwagon box (西部劇に出てくるような木製ワゴン)だけだし。頭蓋骨と脚、その他の部位の骨を取り出せたけど、思ったよりかなり重かったので何個かそこに置いていって二ヶ月後取りに行った。)

そして、ほぼ完璧な状態で見つかっていたと後から暴露してくるティレルさん。現在は発掘地から見つかった化石はなるべく崩れぬよう、石膏でガチガチに固めて持ち帰ります。しかし、当時恐竜の化石は見つかっていたものの、それを繊細に扱う技術はまだ確立されていなかったのでしょうがないです。しかも、斧とハンマーという荒技。さらに、運ぶ際もかなり長距離を移動しているので(ドラムヘラーからカルガリー、そしてオタワへの輸送)そこでもまあ色々崩れたのでしょう。結局博物館に着いたのは、主に下顎と頭骨の一部でした。

from https://royaltyrrellmuseum.wpcomstaging.com/2018/08/12/the-discovery-of-canadas-first-known-meat-eating-dinosaur/

とにかく、この標本はCMN5600とされ、のちにその近くで発見された他の標本とともに、当時勃発していた化石戦争(早い者勝ちで化石を見つけては名前をつけまくる戦い)で有名な、エドワード・コープによって”ラエラプス”という名前で発表されますが、”ラエラプス”という名前はすでにダニの一種で使われていたため(なぜダニと被ったかは不明)、コープの因縁のライバル、オスニエル・マーシュが”ドリプトサウルス”という名前をつけました。が、コープはそれを拒否。でも他の人がドリプトサウルスという名前を使ってしまったりと、ドロドロした対決が続きます。なんだかんだ1905年にヘンリー・オズボーンによってようやく”アルバートサウルス サルコファガス”という名前でCMN 5600がホロタイプとして正式に登録されました。同じ年にアルバータ州が州として命名されたため、それにちなんだとされています。

アルバータ大学で学び、アルバータに住むものとしてはぜひこのホロタイプのTシャツが欲しい!でも、売ってない!ってなったので、自分たちで作りました。お分かりかもしれませんが、我々が一番欲しくて作りました。

1904年のドリプトサウルスとして発表された当時の論文を参考に下顎と標本番号(CMN5600)をプリント。後ろにはアルバータ州の形とアルバートサウルスのフルネームであるAlbertosaurus sarcophagus を載せています。でもわかる人からしたら恐竜好きが瞬時にバレる仕様になっておりますのでご注意ください。

Front (左) Back(右)

Reference(参考文献)

  • Carr, D. Thomas., (2010). A taxonomic assessment of the type of series of Albertosaurus sarcophagus and the identity of Tyrannosauridae (Dinosauria, Coelurosauria) in the Albertosaurus bonebed from the Horseshoe Canyon Formation (Campanian-Maastrichtian, Late Cretaceous),Can.J.Earth Sci.(47).1213-1226.,doi:10.1139/E10-035
  • Lambe, L.M., (1904). On Dryptosaurus incrassatus (Cope), from the Ed- monton Series of the Northwest Territory. In Contributions to Cana- dian Palaeontology 3. S.E. Dawson , Ottawa, Ont., pp. 1–27. https://ia600307.us.archive.org/3/items/cihm_85077/cihm_85077.pdf
  • Tanke, D.H. & Currie, P.J., (2010). A history of Albertosaurus discoveries in Alberta, Canada., Can. J. Earth Sci.(47):1197-1211., doi:10.1139/E10-057

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